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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)1412号 判決 1963年12月03日

上告人 北進漁業株式会社 外一名

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人椎名良一郎、同吉原歓吉の上告理由一、二について。

現行漁業法の目的は「漁業生産に関する基本的制度を定め、漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によつて水面を総合的に利用し、もつて漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図ること」にあることは同法一条に明定するところである。漁業権免許の手続も、漁業の民主化の見地から、まず都道府県知事が海区漁業調整委員会の意見をきき、いわゆる漁場計画を定め、これを公示して(法一一条)、ひろく一般漁業者らに対し、均等に免許申請の機会を与えることとし、免許申請をした漁業者らのうち何人に漁業権を与えるかについては、前記法の目的理念を根底とする免許の適格性(法一四条)および優先順位(法一五条・一六条等)の基準を詳細に規定し、この基準に従つて漁業権を免許するという段取になつているのである。しこうして、右漁場計画を定める場合には、その計画が漁業法の目的に背馳するものであつてはならないことはもとより、いつたん漁場計画が定められた後、新たに漁場を追加認定する場合においても、追加された新漁場計画が漁業法の目的に背馳することができないことは原判示のとおりである。

本件において原審が確定した事実関係によれば、上告人北進漁業株式会社は昭和二四年設立された株式会社で、設立以来、網走市および常呂町地先でさけ定置網漁業に従事し、上告人遠藤熊吉は昭和二三年以降さけ定置網漁業に従事しており、漁業改革後の最初の漁業権の免許について、上告会社は、常呂町地先および網走市西北部地先での漁業権の免許を申請したが、常呂町地先海面の分は右会社より優先順位にある漁業生産組合の競願があつたため免許を受けることができず、網走市地先海面のもの、すなわち網さけ定第一五号ないし第一七号定置漁業権については、上告人遠藤熊吉との競願となり、海区漁業調整委員会は、前記基準に照らし、上告人遠藤熊吉が地元漁民であること、上告会社は漁業法一六条三項に定める昭和二三年九月一日以前一〇年間の年度内において当該漁業の経験がないことその他諸般の事情を論議斟酌したうえ、いつたんは、上告人遠藤熊吉を優先させるべきものと決したので、北海道知事が右委員会の意見どおり決定するにおいては上告会社はその存立に必要な漁業権を全然取得することができなくなる事情にあつたところ、知事は上告会社を救済するため新漁場を設置してその漁業権を同会社に取得させるべく、もつぱら同会社の利益を図るだけの目的で、本件小清さけ定第三五号定置漁業権の漁場計画を新らたに決定公示し、これに基づき右漁業権を上告人両名に共同免許したというのである。

してみれば、本件漁業権の漁場計画は、前記優先順位の制度を無意味にするものであつて、該制度の根底にある漁業民主化の目的理念に背馳し違法であり、これに基づく知事の漁業権免許処分を不適法と認めて取り消した農林大臣の訴願裁決は適法である。したがつて、原審が本件漁業権免許処分についてこれと同趣旨の判断をしたことは正当であり、所論漁業法一一条の解釈を誤つたものとはいえない。

論旨は、敍上に反する独自の見解に立つて原判決を攻撃するものであり、すべて採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 横田正俊 河村又介 石坂修一)

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